仁王様の力だめし

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ページ番号1000748  更新日 平成30年2月28日 印刷 

農家の収入の大部分を養蚕に頼っていた大正時代、当時小学生だった私は、繭かきなどの手伝いをよくさせられた。繭かきはまぶし(蚕に繭を作らせる道具)から繭をもぎとる単純な作業なので、すぐあきてしまうのだった。
そんな時、私の母はいろいろ興味ある話をして聞かせ、手もとへつなぎ留めておくのだった。次の話もそんな時に聞いたものである。
‥‥おすもうさんよりも大きく筋肉の盛り上がっている仁王様は、おれは日本一の力持ちだと威張っていました。しかし自分は世界一だと言われたくてしょうがありませんでした。そこで神通力のある観音様に相談しました。すると観音様は「この世の中で一番早く開けたところは天竺(てんじく=インド)なんだよ。そこには世界一の力持ちがいます。そこへ行って力だめしをして見るがよかろう」と申されました。
そこで仁王様は早速天竺へ渡り、その力持ちの家を尋ねました。中から奥さんが出てきて「主人はいま出かけています。そのうちに帰ってくるから家へ上がって待っていて!」といいました。座敷へ上がっていると、奥さんが大きな火鉢を抱えてきて仁王様の前へドスンと置きました。仁王様はまず一服ときせるのがん首を火鉢にかけて引き寄せようとしましたが、びくともしません。仁王様はこんな重いものを軽々と運んできた奥さんの主人はどんなに力持ちか、自分はつぶされてしまうかも知れないと恐ろしくなって逃げ出しました。「仁王ひきょうではないか」と奥さんが後から大声でどなりました。
仁王様はどんどん逃げて大川のそばへ来ました。幸い一そうの舟があったのでそれに飛び乗り一心にこぎ出しました。川のまん中ごろに出たころ、ブーンとうなりを立ててくさりの付いたいかりが飛んできてふなばたに突きささりました。岸の方を見ると仁王様より大きい男が「仁王逃げるか」とくさりをぐいぐい引っ張って岸にたぐりよせます。仁王様は持っていた杵(しょ=戦いに用いる武具。仁王が握って立っている)をやすり代わりにくさりをごしごしこすって、ぷつっと切ってようやく向こうの岸に着きました。
そして一目散に逃げて、井戸やぐらの二階へ隠れていました。大男は追いかけてきて探しあぐんだ末、ひょっとすると井戸の中へ隠れたかと中をのぞくと、仁王様の顔が写っていたので「仁王出てこい」と叫びました。そのすきに仁王様はそばにあった大石を大男に投げつけて井戸へ落とし、ほうほうの体で日本へ帰ってきました。
そして観音様へ一部始終を話しました。観音様は「その大男は天竺からきっとお前を探しに来るだろう。見つからぬように私の門番をしていなさい。たいくつだったら、わらじでも作っているがよい」といわれました。こうして仁王様は今でも前にわらじをぶらさげ観音様の門番をしているのだといいます。…
こんな話を聞きながら幼い私は繭かきに励んだものだった。

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