たんこぶ地蔵と瘤平

 宝暦(1751~63年)の頃の話だと言われているが、憎まれ者の信平の屋敷外れ、道路添いの一角に野ざらしの地蔵様が立っていられた。
 そのころすでに風化して台座の文字も読み取れなかったので、いつ、誰が安置したのか知る者もなかった。
 周りの十軒ほどが講中で、お花を上げたり、お正月にはそれぞれの家で饅頭ぐらいの小さな鏡餅を供えたりしてお守りしていたが、時々真新しい頭巾や涎掛けを身につけていられることもあった。
 この地蔵様は、講中の者ばかりでなく広く村人たちも信仰していたが、欲が深くて信仰心がない信平は、屋敷の隅のこの地蔵様が邪魔でならなかった。
 もとはお堂でもあってその中に祀ってあったのかも知れないと思うほど、その一角は広く、周りには大きなカナメモチが何本もあって、信平がいくらせぶって(注)もそれ以上お地蔵様の土地を削り取ることができないので、何とかしてこのカナメモチをいじめ枯らそうと、木陰になるといっては丸坊主になるほど枝を切り落としたり、根が張り込むという口実で回りに深い溝を掘ったりした。
 この木は若葉が紅色で美しいのでよく生け垣などにするが、勢いよく生長するのは四、五十年ぐらいまでで、その後は生長が遅くなり、百年たっても人の腕ぐらいにしかならない木だから老木は木質が極めて固く、信平はいつもその根を切るのに苦労した。
 ある日、人目につかないように夕暮れになって深い溝を掘っていたら、太い根に行き当たってしまった。いくら鉈で叩いても受けつけないので、口切りを持ち出して思い切りその根に打ち込んだら、今度は刃先が食い込んで動かなくなってしまった。
 手こずった末、こじるようにして引っ張ったら柄がすっぽり抜けて、その拍子に尻もちをついてしまった。そのときどこかで、「アハハハ・・・」と笑う声がしたので、びっくりして辺りを見回したが誰もいないし、表通りには人影もなく立っているのは地蔵様だけだった。
 「地蔵!笑ったのはお前だな!」あたりどころがないので石地蔵に食ってかかり、抜けた口切りの柄を持ち直すと思いきりその頭を叩いた。はずみというものは恐ろしいもので、はね返った口切りの柄が目がくらむほど信平の額に当たり、大きな瘤が盛り上がった。
 暗くなって手先はよく見えないし、食い込んだ口切りの刃はどうにも動かないのでそのままにして家へ入ったが、瘤はだんだん大きくなり寒気がするので、足だけ洗ってふとんにもぐり込んだ。
 信平はその晩激しい熱でうなされとおした。翌朝、倅が口切りの刃を取りにいったが、どうしても見つからないので戻ろうとしたら、地蔵様の前にちゃんと置いてあった。びっくりしてそのお顔を見たら、石の地蔵様の額に大きな瘤ができていた。
 その後、信平の瘤はますます大きくなって鉢巻きもできなくなってしまったので、村人たちは陰では信平を「瘤平」と呼び、瘤のできた地蔵様を「たんこぶ地蔵」と呼ぶようになった。
 その後、瘤平は何かの拍子に瘤が破れ、どろどろした血うみが止まらず、あっけなく死んでしまったが、不思議なことに瘤平が死ぬと、地蔵様の瘤はいつの間にかなくなっていた。
 瘤平の倅も親におとらぬ欲深で、とうとうカナメモチをいじめ枯らして地蔵様を道端に追い出してしまった。講中の者も村人たちも、目の前であからさまに言いはしなかったが、この倅が通るとその後ろ姿を顎でしゃくって、「あんなことをして屋敷を広げたって、身代は長く続かないよ」と、ささやき合った。
 碁盤のように四角張った体で、潰しても死にそうもない頑丈な体格のこの倅も、食当たりでぽっくり死んでしまった。瘤平の孫は大酒飲みの放蕩者で、博奕と女に身を持ち崩してたちまち身代をつぶして、村人たちが言ったとおり一家は離散してしまった。
 この瘤平屋敷は因縁の土地として誰も手を付けず荒れるにまかせてあったが、名主が引き取って開墾した。しかし、この土地を耕作すると災難を食うといって、同じ人が長く耕作することはなかった。
 瘤平屋敷は今も残っているが地蔵様の行方は不明である。しかし、海老名のどこかにそ知らぬ顔をして立っていられるのではなかろうか。
 これに似た話が市内にはいくつかあるが、個人にかかわりのある場合が多いので、小さな集まりで「大きな声では言えないが」と前置きして話し合う程度で、公の席で話題になることはない。
 これを宗教的な輪廻の必然とみるか、偶然の重複と割り切るかはそれぞれの自由であるが、昔の人はこうした事実を「凡夫盛に崇りなし」と言って、人生運勢の強い時期には災厄を受けつけないが、この時期に善根功徳を積まないと、一度つまずくと弱り目に崇り目で、がたがたと人生が崩れてしまうものだ、と若い者に諭したものである。 

(注)地せぶり・・・境界を無視して自分の土地を広げること

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