姨捨山

 昔、ある所にたいそう意地悪な殿様がいた。
 領民をまるで虫けら同然に思い、どんなに飢饉が続いても遠慮会釈もなく年貢を取り立てた。そればかりではなかった。
 「お前たちの家にはもう働けない年寄りのごくつぶし(注)がいるだろう。そういう老人がいなくなれば、それだけ口減らしができ暮らしが楽になる。だから年寄りは姨捨山へ捨ててしまえ」というお触れを出した。
 村人たちはこのむごいお達しに、天を仰ぎ地に伏してその非情を恨んで嘆き悲しんだが、その命に従うよりほかはなかった。ところがここに一人の孝心深い若者がいた。
 「自分をかわいがって育ててくれた母を、どうして寂しい山奥などに捨てられようか」と、離れた小屋の中にかくまい人目を忍んで食事を運び、こっそりと面倒を見ていた。そうこうしているうちに、殿様から意外なお触れがでた。
 「誰でもよい。灰でなった縄を作って持ってこい。持ってきた者には年貢を負けてやる」というものだった。
 年貢を負けると聞いて、村人たちは目の色を変えて思案投げ首。その作り方をあれこれ考えたが思いつかない。若者はこのことを老母に告げた。
 すると老母は即座に、「それはな、欠けたかめのかけらの上に縄を置いて燃せば、ええ」と教えた。そのとおりにしてできた灰の縄を殿様に差し出し、条件どおり年貢の一部を負けてもらった。
 数日たって、殿様からまた年貢を負けるという懸賞付きで、「ずん胴に削った丸柱の本と末とを、年輪を見ないで知るにはどうしたらよいか」という難題が出された。
 若者はまた老母の知恵を借りた。
 「そんなことわけねえ。その柱を池の中に入れろ。少しでも深く沈んだほうが本だべ」と教えるのだった。若者はその方法を殿様に申し上げ、また年貢を引いてもらった。
 その後、また三度目のお触れが廻ってきた。今度は、「持仏堂に金銅の阿弥陀様が祭ってあるが、そのかさ(量)を知りたい。教えてくれた者には褒美として年貢を負ける」というものだった。
 若者はまた老母の意見を聞いた。老母は、「竹のすのこの台の上に阿弥陀様がすっぽり入る大きさの桶を置いて水をいっぱい入れ、その中に阿弥陀様を沈める。そして、こぼれた水を計ればいいさ」と明かした。
 若者はその方法を殿様に申し上げると、殿様は、はた、と膝を打って、お前は三度も難しい問いによう答えた。だがな、これは若いお前一人の知恵ではあるまい。正直に申してみよ」と問いただした。すると若者は、「恐れ入りました。実は・・・」と、事の次第を隠さず申し上げると、殿様は、「よくぞ申した。本当に年寄りは国の宝だ。わしが悪かった。早速、年寄りを大切にするようお触れを出そう。村の年貢も軽くしてやろう」と言った、と。 

(注)ごくつぶし・・・食べるだけで何の役にも立たない者。

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