尻尾で油を盗んだ狐

 田舎には、現在の職業とは関係のない屋号で呼ばれる家がありますが、こうした屋号は、たいていその家の昔の職業からつけられた場合が多いようです。
 大谷には、「油屋」という屋号で呼ばれる旧家があります。この家は昔、ナタネやゴマを買い集めて油をしぼり、江戸の問屋へ送る「油しぼり業」を行っていました。油屋にはたくさんの職人がいて、大きな仕事場からは何台ものしぼり機の音が、毎日聞こえていました。
 店の片すみでは、地元の人たちのために油の小売りもしていましたが、いつのころからか、日暮れになると決まって油を三合(約0.54リットル)買いにくる小坊主がいました。頭を青々とそり、黒い腰衣をつけた一休さんのようなかわいい小坊主でしたが、どこから来るのか知っている者はいませんでした。
 遊び遊び仕事をしたり、わざと時間をかけて仕事をすることを「油を売る」といいますが、このたとえどおり、油の量を計るのには、ゆっくり時間をかけなければなりません。三合では一合升で三回計らなければならず、時間がかかって仕方ないので、店の小僧が、「一升(約1.8リットル)徳利でまとめて買いに来なさい」と言うと、小坊主は、「一軒一軒、家を回ってお経を唱え、お米を施してもらうのも修行なら、毎日三合の油を買いに通うのも修行だ、と和尚さんがおっしゃるもので・・」と答えます。
 「それなら、もっと明るいうちに来なさい」と言うと、小坊主は、「そうしたいのですが、私が臆病で夜道を怖がるので、『これも修行だ!』と、こうして日暮れどきに買物を言いつけられるのです」と、申し訳なさそうに言うので、小僧はそれ以上何も言えませんでした。
 その後も、この小坊主は相変わらず日暮れに油を買いに来ましたが、不思議なことに、この小坊主が来るようになってから、油の売り上げ金の計算が合わなくなってしまいました。油の量を多めに計り過ぎているのではないかと、番頭もそれとなく気をつけて見回っていましたが、あるとき、この小坊主が油を買いに来ているときに出会いました。
 番頭が、かわいい小坊主だな、と思って見ていると、小坊主はなんと、腰衣の下から大きな尻尾を出し、その尻尾を陰になっている油桶に入れて、たっぷり油を吸い上げ、そ知らぬ顔で帰っていくではありませんか。
 番頭がそっと後をつけると、稲荷山へ抜ける細道を飛ぶように歩き、竹ヤブの入口でちらりと振り返ると、そのまま姿を消してしまいました。
 この小坊主は、その後、二度と油屋には来なくなりましたが、番頭が少なくなった油桶の中を調べてみると、その底には、狐の毛がたくさん沈んでいたそうです。 

(こどもえびなむかしばなし第4集より)

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