くだ狐

 ある宗教の一派では、修業を終えて道場を出ていく者に、くだ狐という超小型の狐のオスとメスを与え、それに易占いの手助けをさせた、と言い伝えられています。
 今から百年以上も昔の話です。どこから来たのか、不思議な祈とう師が大谷の権現堂に住みつくようになりました。この祈とう師は、名前も出身地もわからず、髪やひげも伸び放題で、黄色い目だけが光っていました。
 祈とう師が現れてから各所に狐憑きが増えたので、人々は「あれは狐使いだ」と気味悪がりましたが、家の前に立たれると当たらずさわらず、食べ物などを施しました。ときには、茶などを望むこともありましたが、帰り際に茶わんを伏せていくときは、その中にくだ狐を置いていく、と恐れられていました。
 村人の中には、困ったことが起きたとき、この祈とう師に頼む者もいましたが、占いはよく当たり、なくした物の場所などは必ず言い当てたそうです。
 施しを受けるお礼だといって、家の運勢を占ってくれたりすることもありましたが、「生命の源である井戸の位置が悪いから家の運が衰える」などと、人の気にすることをずけずけ言いました。しかし、ぴしゃりと言い当てるので、「やっぱりくだ狐に探らせているに違いない」と村人たちはささやき合いました。
 祈とう師は、やがて姿を消してしまいましたが、残していったくだ狐が増えて、地元に災いを招いた、と語り継がれています。この狐は繁殖力が強く、飼い主が「どこそこへ行って居候をしろ」と言い聞かせて放すと、それが狐憑きになるのだと信じられていました。
 それでもネズミ算式に数が増えるので、始末に困ると木の箱に入れて相模川に流すこともあり、そのときは、飼い主も一緒に深みまで入って、「共に流れていこう」と、くだ狐に話しかけ、すげ笠を箱にかぶせると、狐だけ水に流して自分はそっと陸へ上がってしまうのだそうです。
 大谷には「狐流し」という言葉がありますが、これを言ったもので、昔は「いつか、のれんを分けて独立させてやる」などと使用人をだまし、働かせるだけ働かせて使い捨てにする主人などをたとえて、「狐流しにあうな」と、老人たちが若者たちに忠告を与えていたものです。「狐流し」という言葉は、今ではほとんど使われなくなりましたが、説明を聞けば、きっと思い当たる人もいることでしょう。 
(こどもえびなむかしばなし第4集より)

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