狐憑き

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ページ番号1000780  更新日 平成30年2月28日 印刷 

大正の頃まではどこの土地にも狐憑きがいて話題になったが、戦後はそんな話を身近に聞くことはほとんどなくなった。
それでも、テレビなどで祈祷師が狐を落とす(狐憑きを正常に戻す)場面などを放映することがある。「どこから来たのか」「どういう訳で憑いたのか」などという祈祷師の質問に対し、極めてリアルにその過程を説明したり、いろいろな因縁話をしたりするが、個人の名前を出されたり知られたくないことを口にされたりすることは、肉親や周りの人たちにとっては困ることだろう。
狐憑きというのは狐が乗り移ってかかるという一種の精神病だと言われており、その発生は人口比率からいえば市街地のほうが多いはずだが、実際は農村地帯に多く、しかも山林原野の多い地域に集まり、市街地では裏町に多いと言った行商人がいたが、どういう理由なのだろうか。
また、狐憑きは圧倒的に女性が多いが、女性のほうが狐に好かれるのかも知れない。
以前、知り合いの農家にも狐憑きの娘がいて、よその人が来たり犬の鳴き声が聞こえると夜着を深く被ってしまったが、時々その袖をそっと持ち上げて辺りの様子をうかがい、妙な声を出したりするので近所の人は「年頃だというのに、あれではお嫁にも行けないだろう」と、気の毒がっていた。
狐が憑くと動作が狐のようになり、食事のとき両手の甲を平にして指先だけ曲げ、お膳をなでたりひっかいたり、小首をかしげて食器の中を覗きこんだり、気味悪いしぐさをする。
また素直でおとなしい娘でも、油揚げがほしいとか赤飯が食べたいとか狐になりきったねだりごとをして、要求が満たされないと暴れたり仇をしたりする。
狐憑きも強い人には従順だと言われているが、或る家では実兄が家にいるときは狐憑きの妹は極めておとなしく、その兄さんがいないときに我がままいっぱいに振る舞い、家人を手こずらさせたと聞いている。その兄さんという人は体格もよく気性も激しかったので、狐もおそれをなしたのだろう。
狐憑きの使った夜着に、狐の毛がいっぱい付いていたという話はよく聞いたが、それが事実なのか、また本当の狐の毛だったかどうか疑わしい。
たいてい突然に「帰るから赤飯を炊いて送り出してくれ」と、村外れの辻や、人気のない原っぱや河原を指定し、言うとおりにしてやると狐が落ちて正常に戻るのだが、長く狐の落ちない者は衰弱して死んだようである。
狐を送り出した直後にその近くを通ると、先の狐が乗り移ることもあるとも言われた。この狐は前話で紹介したくだ狐で、小型のうえに行動が素早いので人目には触れにくいのだ、ということである。
くだ狐は「飯綱の法」という妖術に使う飯綱狐と異名同種だという説もあるが、古書に「飯綱の法」は信州飯綱山の飯綱神に起こる狐の魂を使う妖術であるとあるので、これは出所も方法も違い、別なものであろう。
狐憑きの出るような家庭の主婦や、狐憑きの母親には「ごらっけえなし」(注)が多いとは、古老たちの共通した見解だったようだが、現実にはもう狐憑きがいないので、その説が正しいかどうかは判断できない。

(注)「ごらっけえなし」
独特の方言で年寄り以外は最近あまり使わないが、性質は善良だが教養がなく、何ごともあなたまかせの自主性のない人のことである。

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