狐のおしかけ女房

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ページ番号1000760  更新日 平成30年2月28日 印刷 

いつの頃のことか時代ははっきりしないが、中新田の山王原に、大へん働き者の孝行息子がいた。けれども、この息子は年頃なのにお嫁さんがなかった。
当人は一向そんなことは気にせず、「親子水入らずの生活の方が気楽だ」と言っていたが、母親は早く嫁を持たせてやりたいと常日頃から近所や親戚などにも頼んでいた。
この息子は漁が好きで、母親に好きな川魚を食べさせようと夕方になるとよく相模川へ鮎漁に出掛けた。川辺育ちで鮎の習性や集まる場所をよく知っており、投網も上手なので、いつも近所の人が驚く程沢山とって帰るのだった。
丁度その日も魚篭(びく)いっぱいの豊漁だったので、明るいうちに切り上げて手持ちの小舟を杭につなぎ、ダブの土手に上がると土手続きの竹薮から悲しげな狐の鳴き声がする。行って見ると小狐が罠に掛かって足をはさまれ苦しみもがいていた。
かわいそうなので外してやろうと竹薮へ入って行くと、運悪く罠を仕掛けた人がやってきた。近づいて見たらそれは社家の人で、隣村とは言え道一筋で村が分かれているだけのことだから気安く、魚篭いっぱいの鮎と狐との交換を頼んでみた。社家の人は喜んで鮎のいっぱいはいった魚篭を重そうに持って帰って行った。息子は狐を罠から外し、はさまれてけがをしている後ろ足を手拭いを裂いて結わえてやった。
その晩夜が更けてから誰か入口の戸をとんとん叩くので、くぐり戸を開けて見たらきれいな娘が立っている。何か用かと聞くと「一晩泊めてくれ」という。
母親に相談すると、わけがあるのでしょうから入れてあげなさいというので、その晩泊めてやると「身寄りのない者です。一生けんめい働きますのでぜひおいてください」と涙を流して頼むのだった。母親はすっかり気に入って、この娘を息子の嫁にしようと心に決めた。
それからこの娘は息子と一緒によく働いたが、息子は一向娘には関心のないそぶりだった。ある日「あんなにきれいで気立てもやさしく、よく気がつく働き者の娘がなぜ気に入らないのか」となじると「臭くて一緒に寝ていられません」という。息子は夜、床にはいっても、そばにいる娘の体臭で寝つかれず、いつも逃げ出すのであった。不審に思った母親がある晩そっと様子を見たら、寝ている娘のふとんから草箒(注)のような尻尾がはみ出していたので母親も初めて狐と気がついた。
翌朝娘に「あなたは人間ではないでしょう」というと「先日罠から外して助けて頂いた狐でございます。恩返しに嫁になれと親から言われてまいりましたが、お気に入らないのでは止むを得ません。昼間は気をつけているのですが、狐の業というものでしょうか、夜になると体臭をおさえることができないのです。悲しいけれどもお別れします」といって出て行った。
あとでこのことを息子に話すと「初めて来た晩、びっこを引いていたが、足のけがを結わえた布が自分が裂いて結えた手拭いと同じだったので、その時から気がついていた」と言ったそうである。
これは山王原の間宮家から来たひいじいさんの話だが、何故その狐が臭かったのか、それがどんな匂いだったのかは聞き落としてしまった。

(注)草箒
一年生草本の観葉植物コキヤの原種で、よく小枝が繁茂するので農家では枝ごと竹箒の穂のように束ねて土間など掃くのに使った。

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