草鞋でぼろを出した狐

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ページ番号1000755  更新日 平成30年2月28日 印刷 

あるとき、少人数のお供を連れて、殿様が急に領地の見回りにきたので、村人たちは驚きあわてました。少ないとはいっても、これだけの人数では名主の家でも泊めきれないので、浜田の妙常寺の住職にお願いして泊めてもらうことにして、名主や組頭が領主の一行を寺へ案内しました。
住職は、引き受けはしたものの接待のことが気になって、「寺なので、精進料理しか差し上げられませんが・・」と聞いてみました。「それで結構」ということでしたが、供頭の侍が「殿様は特に油揚げがお好きであるから、なるべく油物を支度するように」と言うので、大急ぎで豆腐屋へ油揚げや飛竜頭(ひりゅうず・がんもどきの種類)を注文しました。
領主も供侍も同じ座敷で、上下の区別なく大変にぎやかな夕食でしたが、この一行は、なぜか飛竜頭をそれぞれ懐紙に包んで袂に入れてしまいました。寺の小僧たちが不思議に思って、このことを住職に耳打ちしました。住職は小首をかしげていましたが、やがて一人うなずきました。
しばらくすると、「殿様が急用を思い出されたので、今夜のうちに江戸にお帰りになる」ということで、また、しばらくの間大騒ぎです。弁当の用意もしなければならないので、このことを供頭にたずねると、「稲荷寿司でよいが、油揚げの油抜きはしなくてもよい」ということでした。
稲荷寿司に使う油揚げは油を抜かないとおいしくないのに変だな、とは思いましたが、供頭のいう通りにして、竹の皮に包み、さらに寺の印の入った渋引きのたとう紙に包んで用意しました。
いよいよ出発。足もとが暗いので、ろうそくで草鞋をはく一行の手元を照らしていた住職は妙なことに気がつきました。それは、これから長道中をしなければならないはずの一行が、みんな仕事草鞋で、道中草鞋をはく者が一人もいなかったことでした。
これは、きっと近所の山にいる狐に違いないと見破った住職は、尊い呪文を唱えました。すると見破られたと気がついたのでしょうか、一行が去ったあとに一人残った供頭は、土間に手をついて、「ご迷惑をおかけ申したが、今夜のことはご領主様にはぜひ、内緒に願いたい、これからは決してこうしたことはいたしません」と、何度も何度も住職に謝りました。
何日かたって、稲荷山の付近に、妙常寺の印が入ったたとう紙がたくさん散らばっているのを見た人がいました。動物の悲しさで、人の姿に化けることはできても、近所の山に住みついていて旅に出たことがないので、身近な村人の仕事草鞋のはき方しか知らず、道中草鞋をはくことができなかったのです。このことがあってから、狐でも経験が浅いと、とんだところでぼろを出すものだと長い間語り伝えられています。
(こどもえびなむかしばなし第4集より)

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